医療従事者の放射線防護について

放射線防護

個人被ばく線量計

放射線を取り扱う事業者(病院であれば院長など)は、放射線業務従事者、管理区域に一時的に立ち入る労働者について、被ばく線量を測定することが義務づけられています(電離放射線障害防止規則第8条、医療法施行規則第30条の18第2項など)。

線量測定の手段として、一般的に個人線量計(いわゆるガラスバッチやフィルムバッチなど)が使用されています。個人線量計は男性であれば胸部に、女性であれば腹部に装着させます(均等被ばく管理)。

さらに血管撮影や透視検査など、防護衣を着て診療につく場合は、2個目の個人線量計を頭頸部に、場合によっては3個目を手指(高い被ばくが予想される部位)に装着させます(不均等被ばく管理)。

これらの管理形態は事業者に委ねられており、実際の被ばく状況を考慮した適切な対応をしなければなりません。例えば、毎月0.1 mSv未満である診療放射線技師は、均等被ばく管理でも十分ですが、被ばく線量が高いことが予想されるIVR(Interventional Radiology)を行う医師は、不均等被ばく管理をするのが適当です。

このように、被ばく状況を把握することが重要であり、そのためにもまずは、放射線業務従事者に登録して、均等被ばく管理を開始する必要があります。

また、他院から来る医師の被ばく線量測定は、おろそかになりがちです。放射線業務従事者登録されていない場合、放射線管理区域への立ち入りの際には、電子式ポケット線量計などを用いて線量測定を行う必要があります。結果は本人に必ず通知し、決して年線量限度を超すことがないように管理してください。

放射線防護衣

防護衣は、散乱線による胴体部の被ばくを防護する目的で使用します。

特に医療現場で用いられる放射線はX線やγ線であるため、遮蔽するための金属として原子番号の大きい鉛が利用されることが多いです。実際の臨床では、放射線の量を減らすことが目的ですので、必ずしも100%防護する必要はありません。

放射線防護衣には様々な種類があり、前面だけを防ぐエプロンタイプや体全体を覆うコートタイプ、上下を切り離して使うことができるセパレートタイプがあります。また、主に前面が0.35mmPb以上の厚さのものを重装防護衣(コートタイプの含鉛のもので約4.5 kg)、0.25‐0.35 mmPbのものを軽装防護衣(コートタイプの含鉛のもので約3.8 kg)と日本工業規格(Japanese Industrial Standards:JISと略)で規格されています[1]。なお、0.25 mmPbの防護衣でも、散乱線に対して90%程度の防護効果があります[2]。

防護衣は鉛含有量に応じた防護効果が期待できますが、その分重くなるため作業者の身体的負担となり、結果、作業性が低下します。作業用途、作業位置(線源からの距離)に応じた防護衣の選択が必要です。

例えば、IVRを行う医師の傍でサポート(直接介助など)を行う看護師は、防護効果の高い防護衣を選ぶことが望ましいですが、記録など外回りを担当する看護師は、軽量な防護衣でも問題ないと言えます。防護重視なのか、作業効率重視なのか、診療開始前にあらかじめ話し合っておくのも良いかもしれません。また、防護衣のサイズも重要であり、大きすぎる防護衣を使用すると、脇などの隙間から被ばくする可能性がありますので注意が必要です。

なお、近年は鉛に代わる遮蔽効果のある軽量素材(無鉛)の使用(無鉛物質を使うことにより防護衣の重量の約30%軽量化することができる)や、腰痛対策のための腰ベルトなど、様々な身体的負担軽減の工夫がなされています。

無鉛物質を使用した防護衣には、鉛の厚みに相当する値として「鉛当量」と表記されており、表記されている鉛と防護能力は変わらないため、広く用いられています。また防護衣は、乱雑な使用や保管方法、経年劣化などにより、中の鉛が破損し、防護能力の低下を起こしてしまいます。

定期的な透視装置やX線CT装置のスカウト画像などを利用した点検を行うことを心がけてください。

防護眼鏡とネックガード

防護眼鏡は眼の水晶体を防護する装具であり、最新の研究により、IVR従事者は眼の水晶体の防護が必要であることが示されています[3]。

しかし、視界に直結する防護具であるため、その煩わしさから敬遠する従事者も少なくありません。防護眼鏡も防護衣同様、含有鉛の量によって重さや防護能力が異なり、形状も一般的な眼鏡と同じ形のスタンダードタイプや、横側まで覆われたゴーグルタイプなどさまざまです。

また、軽装、重装にもわけられ、軽装防護眼鏡は側面を含めた眼鏡全体の減弱比が2以上であるもので、反対に重装防護眼鏡は0.5 mmPb以上の鉛当量のものと規定されています[1][4]

防護眼鏡は、診療種、鉛当量、眼鏡の形状によって防護効果が異なります。また防護眼鏡は、使用者の向きによって隙間ができるため防護効果が下がり、さらには左右の眼で被ばく線量が異なることも報告されています[5]。

そのため、理論上の防護効果(約50%)を得るには、線源の方向に顔がまっすぐ向いていなければならず、臨床における防護効果は理論値よりも低いものと考えられています。

ネックガードは、防護衣だけでは不十分である甲状腺を防護する目的で使用され、鉛当量が0.25 mmPb以上のものと規格化されています[1]。硬質、軟質の種類があり、衛生面の問題から使い捨てのカバーがあります.

防護衝立

防護板(衝立)は、唯一、身に着けない防護具であるため、放射線診療従事者の身体的負担なく使用できます。防護板は天井から吊り下げられており、線源から眼の水晶体などの被ばくをピンポイントで防護することができます。

また、防護衝立は体全体を防ぐことができる大きさで、鉛当量が多いもの(3.0 mmPbなど)を使用すれば、防護効果は極めて高くなります。

その他にも寝台の周りに柵状、カーテン状に取り付けられるものや,毛布のように掛けるものなど、追加で使用できる防護具はさまざまあります。これらの防護具を適切に使用することが、何よりも効果的な放射線防護となります。

参考文献

[1] 日本画像システム工業会(2016):診断用X線に対する防護用具 第3部:防護衣,防護眼鏡及び患者用防護具.日本画像システム工業会,東京 http://kikakurui.com/t6/T61331-3-2016-01.html(Accessed on 30 December 2019)

[2] 千田浩一(2008):IVR術者被曝の計測評価と防護. 日本放射線技術学会雑誌 64(8):1009-1014.

[3] 赤羽恵一,飯本武志,伊知地猛,他(2014):水晶体の放射線防護に関する専門研究会中間報告書(Ⅲ)—海外における放射線業務従事者の水晶体被曝レベルと防護に関する研究—. Jpn. J. Health Phys 49(4):171-179

[4] 日本画像システム工業会(2016):診断用X線に対する防護用具 第1部:材料の減弱特性の決定方法.日本画像システム工業会,東京 http://kikakurui.com/t6/T61331-1-2016-01.html(Accessed on 30 December 2019)

[5] 盛武敬(2017):第4回眼の水晶体の放射線防護検討部会.原子力規制委員会,東京 http://www.nsr.go.jp/data/000209654.pdf(Accessed on 30 December 2019)

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